遥かに仰ぎ、麗しの レビュー

 こんちゃーす。高校時代の黒歴史がヤク中レベルでフラッシュバックするセンヤです。純粋に死にたくなる。このブログもいつかその手の思い出になるんだろうなあ(遠い目)。

 今回レビューするのはこちら。

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 名作と名高いあの有名なPULLTOPさんの「遥かに仰ぎ、麗しの」です。

 前からずっとやりたいと思ってたんですよね。で、セールだったので買ったれと思い手を出した次第です。

 

 

あらすじとか(Wikipediaより引用)

 凰華女学院分校に新任教師として赴任することとなった主人公と学院生たちとの交流を描く物語である。凰華女学院はいわゆるお嬢様学校であり、分校の学院生は本校から途中転入してきた本校組と、分校に直接入学してきた分校組に分かれ、制服や寮が両者で異なる。学院は全寮制となっており、主人公が本校系の寮と分校系の寮のどちらに入るかの選択で物語は大きく分岐する(メインヒロインの6人は本校系・分校系で3人ずつ分かれ、寮を決めた時点で、内3人は攻略できなくなる)。

 本校系と分校系ではシナリオライターが違うので雰囲気がかなり違い、整合性も二の次となっている。

 例えば、本校系のシナリオでは主人公以外に各ヒロインやサブキャラクターの視点でストーリーが語られるのに比べ、分校系のシナリオでは話と話の間に次回予告が挿入され、また邑那ルートの次回予告以外はほぼ全て主人公の視点で物語が展開する。

 

ネタバレなしの感想

シナリオ     A+   最高の純愛物語がここにはあった

キャラクター A+   ヒロインだけでなく、主人公の魅力も抜群に良い

CG          A     崩れもなく可愛らしいデザイン。モブキャラにも欲しかった

音楽     A     いくつか印象的な曲がある。OPも良し

総合評価   A+   純愛ものとして完璧な本校、重厚なシナリオの分校

 

 予想の915434434534534倍は凄いお話でした。特に本校ルートが。

 特別に何か凄い伏線があるとか、劇的な盛り上がりがあるとか、そういうのではないです。日常の中で築き上げた、非常に地に足の着いた恋愛劇が展開されます。それの質が高いこと高いこと。ここには正しく純愛があります。ライターの確かな筆力によって構築されたレベルの高い日常ラブコメ。それがかにしの本校ルートです。

 分校も良い。本校とは打って変わってドラマティックな展開に溢れています。テーマとお話とHシーンが密接に絡みついていて、非常にエロゲらしいお話でした。

 一番の見どころは主人公です。人として完成されていると思うほどに完璧にかっこいい主人公です。けれどただ「主人公」という肩書に沿うだけの記号的な人物でもない。そこらへんは本作をプレイしていただければ分かるので、ぜひやってみてください。

 一言でいうなら名作です。間違いなく。

 

共通 B

 この作品、とにかく共通が短いです。なんで感想も何も書くことがあまりないですね。

 私個人の意見としては、共通はこれくらいのボリュームで良いと思っています。ヒロイン達の顔見せだけ流して、すぐに分岐。その方が個別ルートのテキスト量を増やせます。誰とも恋愛に発展しないお話を長々と続けられてもだれるだけですしね。ヒロイン達の魅力を確認してから攻略ヒロインを決めてほしいという思惑もあるのでしょうが、そういう場合は全ヒロイン攻略後にグランドルートを設けるなどして全ヒロインを攻略せざるを得ないシステムにしてしまえばいいと思っています。

 かにしのは本当に一時間にも満たないうちに分校組本校組のシナリオ分岐が発生し、その後もすぐに個別に入るのですごくテンポが良かったです。飽きずに進められました。

 共通時点では栖香>美綺>殿子>みやび>梓乃>邑那の順で好きです。世間では本校組が人気のようですが、共通時点では分校組の方が印象が強いです。

 

栖香ルート B+

 めちゃくちゃ面倒くさいなこの子!ツンデレを極めたような子。話もある意味ツンデレがテーマみたいなものですし。最高に可愛かった。

 ダメだと分かっているのにキスしたり、教師と夜な夜な密会したり、家族に捨てられて主人公しか頼れる人がいなくなったり、シチュエーション的背徳感が凄まじくてえっちでした。「好き」と言わないで行為をぶつけあっているあたりが背徳ポイント5億点。普段は毅然と構えている栖香が二人だけの時は甘えてくるのが破壊力抜群でだいぶキモイにやけ方してた。暗転した画面に映る気持ち悪い笑顔の男、誰...?私です。

 テーマは多分、「感情と理性の不一致」。「しがらみ」とか「ふるまい」と言い換えても良い。本心では美綺と仲良くしたいのに家同士の対立のせいで素直になれず、仁礼崩壊の原因を作った人と繋がりのある邑那も避けてしまう。主人公とは両想いなのに、襲われた経験からどうしても一線を越えることができない。

 この世には、感情ではそうしたくてもできない、そういう状況が無数にあふれている。そして、本意ではない行為が更にすれ違いを加速させてしまうこともある。そういう思わされるお話でした。早い話が壮大なアンジャッシュ。対話が足りなさ過ぎましたね...。散々大人の社会のどうにもならなさを描いておきながら滅茶苦茶都合の良い決着で話が終わりましたが、これも私や主人公たちが相沢家を誤解していたからなんでしょう。そう思わせるようにシナリオが描かれているのも面白いです。

 少し気になったのですが、このルートの主人公、結構屑じゃないですか?勝手に忍び込んできたとはいえ、何度も栖香の自慰をのぞき見してるし、襲いかけることも何度かありましたし...。栖香は襲われたがってる!→やっぱり違うのかな...を五千回くらい繰り返しててもはや襲いたくなる自分を肯定する言い訳にしか見えなかったです。中盤はずっとこの展開の繰り返しで中々話が前に進まなかったので、ややだれた感じはありましたね。

 

美綺ルート B

 正しいことしか言わないお姉ちゃん。共学の学校にいたら、絶対初代ポケモンの数くらいの童貞を殺してたタイプ。

 いやー、美綺も可愛いですね。天真爛漫で恥じらいすら持たなかった少女が恋を知って、初心な反応を返してくるようになるのがたまらなく可愛かった。恋人であると同時に相棒、友人でもあるという距離感が心地よかったですね。

 シナリオですが、まあ普通でした。栖香ルートで長々とやっていた桜屋敷のお話を速攻で終わらせたのは正直ビビった。テンポが良いのは評価できますが、栖香ルートのごたごたは茶番でしかなかったんだなという思いがあり、栖香ルートは何だったんだろう...というもやもやがあります。ただ、栖香と仲良くしている様子が沢山描かれていたのでそこは凄く嬉しくなりました。よかったねえ。

 栖香編が終わったあとはずっとエッチ三昧だったようですが、教師と生徒の恋愛のお話としてそれはやばいんじゃないかと思ったり思わなかったり。教師以前に大人としてそこは流されちゃダメなんじゃないか...?

 テーマは何だろう。守りたいものとか、そんな感じでしょうか?正直終盤の話の流れはよく分かりませんでした。結局老人はどこへ行ったんだ?

 それと、坂水の脅しは何だったんだろう...。もう二度と外には出られんとか匂わせぶりに言っておきながら、全然何も動かないままに学院を追放されてるんですけど...。

 

邑那ルート B+

 マジで食指の動かない眼鏡っ子。眼鏡をかけている人の15225566割は眼鏡ヒロインが苦手であるとハーバード大学の研究結果が出ています。例に漏れず私も眼鏡ヒロインが苦手な眼鏡マンです。

 このルートの主人公は輪をかけてひどい。感情で動いてばかりで短絡的な思考が多いですし、生徒になだめられるとか最悪でしょう。いい大人が何やってんすか...。無神経な言動や行動が目立って、読んでいて結構イライラさせられました。しかも結構馬鹿。散々人を一面で判断するのは良くないという事例を見せられておきながら、誰一人本性を見破ることが出来ていないじゃないですか。結局感情に理性が負けてるんですよねこの人。こんなこと言う人が悪い人なわけない!みたいな感情論で決めつけることが多いですし。もう少し賢い主人公でいてほしかった。

 世界は光の当て方で、見え方ががらりと変わってしまう。これが分校ルート全てに通ずるテーマだったのですね。どんな人だって一枚岩ではできていない。他者にとっては冷酷非道な人間に見えても、その実何か守りたいもののために戦っているだけかもしれない。人を一面だけで判断するのは間違っている。そういうお話でした。同じキャラでも、ルートによってくるくる人相が変わってゆくのが面白かったです。特に暁さんの正体に関しては結構ビビりました。この人どのルートでもそれなりに幸せな結末迎えてますよね。もしかしたら一番の成功者なのかもしれない。

 終盤の源八郎との対話シーンなどは好きです。人は光の当て方で見せる顔が全く変わる。けれど、どこから照らしたって変わらない芯の部分だって存在する。源八郎は正真正銘の怪物でしたね。

 分校ルートの集大成ともいえるルートでしたが、主人公がやや馬鹿であること以外はおおむね満足でした。

 

梓乃ルート A+

 めっっっっっっっちゃくちゃよかった.......。

 愛することを恐れた青年と、他者と関わることを恐れた少女の純愛ストーリーでした。

 まず梓乃が可愛いんすよ...。怯えてばかりいた梓乃が少しずつ表情豊かになっていくのが破壊力抜群。梓乃視点で心情が語られる場面も多く、梓乃の魅力が最大限に表現されていたと思います。あと、声が最高。溶けるわこれ。

 お話自体は実はそれほど凄い何かで出来ているわけではありません。全体的に落ち着いた進行で、学園ものにありがちなクリシェを多々扱っています。しかし、ただの凡庸な恋愛ものではない。何の飛び道具もギミックも使わないで、ただただ丁寧に変わりゆく感情と関係を紐解いていく、それだけで一級品の恋愛劇を生み出すことに成功しています。本当に凄いと思うこのルートは。

 例えば坂水先生のお話。ストーカーに襲われるヒロインを颯爽と助ける主人公という、言ってしまえばありがちなシナリオ展開です。しかし、ここに「ヒロインが主人公に痴漢冤罪を押し付けようとしていた」という事実を被せることで、自分が主人公にしようとしていたことの危うさを自覚するとともに、主人公を意識するようになるという感情の変化をこれ以上ない説得力で表現することに成功しているのです。ありがちな展開を大きく膨らませている。梓乃ルートは全編こうした質の高いクリシェで作られていて、そこが凄いのです。いやー、面白かった。

 テーマは勇気。自分の殻に閉じこもることは、人生を投げ捨てていることに他ならない。実親に捨てられた司が滝沢家に来て愛を知ったように、世界は我々の思うより少しだけ優しいのだ。でも、自分の世界に閉じこもっていてはそれを知ることができない。それは、世界を知ることを放棄することと同じで、つまりは人生をふいにしているのだ。確かに変化は怖いし苦しみを伴うかもしれない。けれど、痛みを伴いながらも一歩を踏み出す勇気が大切だ。そういうお話でした。

 

殿子ルート A

 殿子!うわああああああああああ殿子!!!!!!!!!!!!可愛いよ殿子愛してるよおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 このルートもすっごい良かった...。戦闘機制作と鷹月家の確執という二つの軸を「自由」というテーマで繋げて並行し、ラストでそのテーマが帰結する。戦闘機作りに成功し自由に空を翔ける...のではなく、失敗し墜落した司を見て殿子は自由とは何たるかを知る...。奇跡を使わないでテーマを描いているあたりが上手いです。

 「困難に際して諦めるから自由にならない。困難に際してなお、揺るがぬ意志と強い行動力を示し続ける。自由とはそのようにして顕されるものだったのだ。」良い言葉ですね。戦闘機は結局自由に飛ぶことは叶わなかった。けれどそれで終わりではない。戦闘機もろとも海に沈んだ司は泳いで戻ってくる。失敗したから諦めるのではなく、失敗してもなお困難に挑み続ける。その意志こそが自由である。

 エピローグにてかなりご都合主義的な感じでお家問題に決着がつきます。これには結構賛否両論あるみたいです。私も確かに驚きはしました。思わず「なんだそれ!?」と声が漏れた。けど、私はまぁ許容範囲内かなと。司と殿子は抗い続けたわけですし、その結果として自由を手にしたわけですから、テーマに即した終わり方だったとは思います。過程をもっと描いてほしかったという気持ちはありますが、戦いの間に何があったのかというのは少しお話からずれるところですからね...。最後まで自由というテーマで一貫させたかったんでしょう。

 殿子ルートも面白かったなあ...。このライターさん、恋愛の扱い方が凄く上手です。特別な何かがあるわけではないのに、ここまで読ませるシナリオを作れるのは本当に凄い。ちょっと健速さんの作品に興味が湧いてきてしまいました。

 

みやびルート A+

 完璧すぎてなんも言えねえ...。

 お家の問題だとか理事長としての苦悩だとかもありましたが、結局のところ、みやびが「みやび」として生きるための愛の物語でした。リーダさんとの姉妹愛、司との純愛、そして三人で築く家族愛。あらゆる愛に溢れた物語であり、それがすべてのルートでした。すっごい良かった...。

 強気だったみやびが甘えてくるようになる様子がとてつもなく可愛い。可愛すぎる。いや、可愛すぎないか?みやびやリーダさんの視点から語られる場面が多かったので、みやびの変化に確かな説得力があったのが良かったです。本当に心の底から司を愛しているのが伝わってきて、凄く感情移入してしまった。クライマックスには普通に泣いてた。

 本校組すべてに言えることですが、司の行動に確かなバックボーンが存在しているのが面白い。ともすれば偽善にすら映りかねない模範的な主人公像をしているのですが、それは家族に捨てられた経験に裏打ちされた仄暗い思想からきたもの。そこには誰にも裏切られたくないからこそ愛を与えることも受け取ることも避けてしまうという弱みを孕んでいる。だからこそ司の行動には嘘くささがなく、血の通った魅力的な人物になっているのです。そして、司の行動の節々に見え隠れする心の弱みにヒロインが寄り添うことで、真にお互いを思いやり愛し合う関係が育まれる。純愛とはこういうものなんだろうなあと思います。一方的ではなく、双方向的な関係。

 「これは僕らが大事なことに気付いたというだけの、ごくごく当たり前の物語だ。」

 この文言をもってみやびルートは終わります。そして本校ルート全てに通ずる言葉でもあります。司は真に愛し愛されることを知り、梓乃は恐れを覚悟し一歩を踏み出す勇気を知り、殿子は自由とは何たるかを知り、みやびは真に愛し愛されるべき存在を知る。これらは至って普遍的なもので、しかし彼らには欠けていた。だからこそこのお話は、「当たり前」によって作られることが必須だったのです。劇的な何かはないし、ありがちなクリシェに彩られている。この作品は、「当たり前」の日々を過ごし「当たり前」を見つける、ただそれだけのお話だったのではないでしょうか。そう思うと、何気ない日常の1シーンにさえ物語的な意義が感じられます。つくづく無駄のないストーリーだなあ。

 お互い、不安と期待を持っている者同士、時にそれをぶつけ、時にそれを笑い合い、そうして、お互いを知って生きましょう。そして、よき仲間となり、よき友人となりましょう。

 

総評

 噂以上の超名作でした。いや、本当に凄くて...。今でも私の心は凰華女学院分校に奪われている始末。

 本作は本校組と分校組でライターが異なり、お話の毛色も全く変わります。どのルートも「社会」と「個人」の関わりがテーマとなって進んでゆくのですが、本校では「個人」、分校では「社会」が主な軸となって描かれています。なので、本校組は繊細に心情を描いた人間ドラマが展開されますし、分校は家の闘争に翻弄される少女たちを描いたドラマティックなシナリオが展開されます。まあ好みによるでしょうが、私は本校組がたまらなく好きでした。本校ヒロイン三人は私的名ヒロイン史の中に刻まれました。

 思えば、司が教師であるという設定が上手かったんでしょうね。教師と生徒という明確に上下がついた関係性だからこそ、その壁を破って対等な恋愛関係になることに意味が生まれる。男だからとか教師だからとか関係なく、ただ一人の人間として愛したからこそ相手を思いやるし、ヒロインも然り。真の純愛がこのゲームにはありました。

 それと、これは本校分校どちらにも言えることですが、Hシーンに意味があるのも好印象でした。本校では愛の結実した形としてHシーンが描かれていますし、分校ではそもそもシナリオに密接に絡んでいます。ただ雑にHシーンを突っ込んだだけではなく、お話に活かしていたのが上手い。まあ、だいぶ本校組分校組でHシーンの量に偏りがありますが...。それもまあよかろうて。許そう。

 本校組の話ばかりですが、分校組もすごく良かったです。これに関しては、本校組があまりにも良すぎたというだけです。

 何気ない日常すら退屈な場面が存在せず、完璧な作品でした。純愛が見たい方や魅力的なヒロインを見たい方、そしてハイスペック主人公の気持ち良さを味わいたい方にはぜひおすすめの一作です。私的ベスト5には入ったであろう作品でした。

 

締め

 だめだ、いつも以上に何が書きたいのか分からない滅茶苦茶な駄文ができてしまった...。いつもルートを終わらせた直後に感情のままに書きなぐってから推敲する形で書いているのですが、今回はいつも以上に感情がでかくてなんかもう壊れてた。ダメだと思い後日書き直そうとするのですが、あの時の高揚感そのままのエネルギッシュな文章を消してしまっていいものかと考えてしまい。結局あまり推敲せずに書いてしまいました。改めて読み返すと分校組の時と本校組の時のテンションが違いすぎてウケる。

 そんなこんなで10日で終わらせてしまった。次は何しようかな。かにしののおかげで健速というライターさんに興味が出てしまったので、「こなたよりかなたまで」や「そして明日の世界より」をやるかもしれない。あとは単純に前々から興味のあった「この青空に約束を」とか、積んだままになっている「あかね色に染まる坂」とか。まあ長い時間をかけて全部やるんでしょうね。時間だけは有り余っているものですから。

 いつも以上に長くなって申し訳ない。では次の記事でー。